リスクを恐れては前進できない。

 1985年、通信事業が民営化された年に当社は生まれた。Mグループの全28社が資本を出資。当時はまだまだ未知のものだった衛星通信ビジネスを切り開き、未来の通信インフラを構築していくことを目的として事業をスタートした。衛星系の第一種電気通信事業者として、グループの総力をバックに、日本における衛星通信ビジネスを確立してきたフロンティア企業なのである。現在では、赤道上空3万6000キロの静止軌道上に、通信衛星を3機保有。充実した設備体制のもとで、通常の衛星通信回線の提供のほか、数々の新しいサービスも提供している。

 情報通信の分野は今後も急速な成長が予測されているが、中でもとくに衛星通信にかけられている期待は大きい。衛星通信はこれまで放送や官公庁・地方自治体など、限られた分野で利用される特殊な手段だった。ところが、これまで地上系通信を基本に構築されてきた企業ネットワークなどにも、衛星通信の技術が利用されるようになってきた。大容量・高速の伝送路が必要なマルチメディア通信、国際通信、移動体通信など、衛星通信が持つメリットが、社会の要請と合致する形で、一般社会へと浸透してきたのである。当社の設立以来の夢は、少しずつではあるが、確実に実を結びつつある。衛星通信が未知のものだった時から、そしてこれからも、「宇宙」と「通信」という2つのフロンティアに挑み続ける集団。それが当社なのである。

事業説明
衛星通信という選択肢を社会へ。
それは、200億円の設備投資から始まった。

 当社が設立されるほんの2~3年前まで、宇宙開発は国家プロジェクトとして取り組むものという常識がありました。当社のような民間企業が衛星通信ビジネスに取り組む環境が整ってきたのは、実は最近の話なのです。当時は通信事業の自由化が実現しはじめた頃で、グループとしてはこれを一つのチャンスととらえて、将来に向けた先行投資を行い、第一種電気通信事業者の会社をグループ内に持とうという考えがあったのです。

 そうした未知の開拓というコンセプトのもとに事業をスタートしたわけですが、まずはじめに経験したのは「未知の宇宙の壁」でした。1989年、最初の衛星である旧A号機が打ち上げに成功し、サービスを開始しました。しかし、続く2機目の衛星はロケットの失敗で打ち上げ時に失い、同じ年に軌道上のA号機も息を引き取ってしまったのです。ただ、グループ全28社が200億円を投じてはじめた事業であること、また衛星通信は免許事業であって社会に対する責任もあります。そして何より、衛星通信の将来は自分たちの手でつくりあげるんだ、という強い意志がありました。だから、誰もマイナスの発想はしなかった。試練は確かに大変でしたが、それで将来性が消えてしまったわけではありません。結局、資本を一気に3倍に増資し、600億円の資本で再スタートを切ることになったのです。

 以後は、この経験を糧に順調に事業を展開し、1992年にはB号機、A号機と2機の衛星の打ち上げに成功、1995年には初めて黒字を計上しました。そして1997年にはC号機も加わり、AB号機と並んで3機が安定した可動を続けています。98年3月には23億円の経常利益を実現するところまで持ち直しました。大きな壁を経験し、乗り越えた企業として、本格的な成長期に入った衛星通信ビジネスを発展させていこうと考えています。

衛星通信が私たちにもたらしたもの。

 広域性、同報性、柔軟性、耐災害性、広帯域性、多元接続性など。衛星通信には、これまでの地上回線にはなかった、数多くのメリットがあります。当社では、これらの特長を最大限に生かしたサービスを数多くのユーザーに提供してきました。中でも、放送関連業界は早くからお取り引きいただいているメインユーザーの一つです。全国各地の取材現場から車載局・可搬局を利用して、衛星経由で映像や音声を伝送するSNG(サテライト・ニュース・ギャザリング)は、その好例といえるでしょう。また、渋谷や新宿の大型ビジョンには受信設備があり、イベントなどを流すことができます。あるいは、企業の新製品発表などでは、全国のユーザーをクローズド・サーキットの会場に招き、商品説明や専門家の映像情報を配信することも活発に行われています。

 一方、公共分野では、全国の地方自治体を結ぶ大規模な防災システム、電力・ガスなど公共企業の災害時におけるバックアップ回線としても衛星通信が活用されています。ほかにも、「教育」という切り口での利用は、地域格差を解消するという点で早くから着目されてきました。民間企業では社員研修に、学習塾・予備校では授業の配信に。文部省では教職員の研修、厚生省では看護婦や介護士などへの情報提供などが考えられます。

 そしてこれらは、ユーザーのニーズに応え、個々に衛星ネットワークを構築していくものでした。最近では、地上回線が使えない山岳地などとの通信を可能にする衛星電話サービス、低コストで衛星通信が利用できる数々のアプリケーションを確立。衛星の利用範囲は、専門分野から一般分野へと浸透し始めています。さらに、1995年8月には国際電気通信事業の免許を取得し、アジア各国との通信を開始するなど、当社のサービスは今、縦にも横にも大きく広がろうとしています。今後も、新しいマーケットを創造するという当社のビジネスに変わりはないのです。

新しいメガトレンドを目前にして。

 衛星通信の新しい動き。それは「専門分野から一般分野へ」ということになるでしょう。初期の衛星ビジネスは、ユーザーとトランスポンダ1本の利用権を年間契約することでした。ところが最近では、デジタル圧縮技術などの技術進化によって、狭い帯域でたくさんの情報が伝送できるようになり、大幅なコストダウンが実現しました。あるシステムは1本のトランスポンダで6ch以上の容量を持ち、少ない資金で放送事業への進出を可能にしたシステムでもあるのです。ただし、衛星通信はこれからの分野であるために、当社自身がわかりやすく、使いやすいアプリケーションシステムを提案していかなければ順調に普及はしないでしょう。その提案の第一歩が利用した情報量に応じて課金する仕組みで、大きなコストメリットがあります。すでに、企業の本部から新製品の特徴や販売手法などを全国拠点に直接伝えたり、中古車オークションで活用したり、と新しい利用形態が生まれています。こうしたアプリケーションの提案を、SI企業や通信機器メーカーなど、各分野の有力企業と協調しながら進めていく考えです。

 また、環境の変化も見逃せません。97年には放送法、電波法、電気通信事業法などが改正されましたし、今後も自由化が進む傾向にあります。98年1月からは、海外の衛星通信事業者の国内市場への参入も始まりました。規制緩和の中で、放送と通信、つまりテレビ番組とデータ通信の一体化や、また衛星の個人利用なども可能になるかもしれません。技術進化、環境変化ともに動きは激しく、実際、サービスの導入ついて検討結果「わからない」でした。デジタル化が進むことはわかっていても、3年先は誰にも見えない。それでも当社は挑みました。先が見えない世界だからこそ、チャレンジと万全の取り組み、その両方が必要になるのです。

技術説明
衛星から通信応用技術まで。

三軸姿勢制御方式
 ピッチ軸、ロール軸、ヨー軸の三軸で人工衛星の姿勢を制御する方式。衛星本体を直接回転させるのではなく、衛星内のフライホイールの回転によって安定した姿勢を保つ。太陽電池パネルを常に太陽方向に指向させることで、大きな発生電力を得ている。また、ホイールを常時回転させ、外乱に対して回転速度の変化で姿勢保持を行うものを、バイアスモーメンタム方式という。三軸姿勢制御方式のほかに、スピン方式といわれるものもあるが、こちらは構造を簡素化できるものの、衛星を大型化できないという制約がある。

5本のビーム
 C号機には、5本のビームを搭載。日本ビーム、北東アジアビーム、南東アジアビーム、ハワイビームの4本の固定ビームに加え、可動ビームも1本装備されている。これら5つのビームによって、アジア・太平洋地域のほぼ全域をカバーする。

柔軟なビーム間接続
 それぞれのビーム間を結ぶスイッチマトリックスもC号機の特長。日本ビームからアップリンクし、南東アジアビームからダウンリンクする。あるいは、1つのビームからアップリンクしたコンテンツを同時に2ビームに配信することも可能で、広域放送型サービスに対応している。日米間、米国・アジア間の通信はハワイの基地局を経由して米国の衛星へ直接接続できるなど、衛星通信の国際化時代をにらんだ柔軟なビーム間接続を実現している。

可動ビーム
 高精度なステッピングモーターを用い、8/10、000度という精密さで専用アンテナをコントロール。スポットビームを東西南北のどの方向にでも移動させることができる。C号機は初めて可動ビームを搭載した通信衛星でもある。

デジタル圧縮技術
 デジタル化の進展によって、1本のトランスポンダの価値が高まってきた。放送でいえば、アナログならトランスポンダ1本で1ch分しか取れなかったが、デジタル圧縮技術によっておよそ10chほど(ch数はスペックによって異なる)のch数が確保できるようになった。多チャンネル化によって、低コスト化も実現し、衛星の利用領域を一般分野へと広める契機になった。C号機を使った100chの衛星デジタル多チャンネル放送にもこのデジタル映像圧縮技術が生かされている。

B-ISDNとの接続
 108MHz帯域幅(出力180W)に合成可能なトランスポンダを搭載し、156Mbpsの高速大容量伝送を可能にした。これにより地上系の次世代通信網であるB-ISDN(広帯域統合デジタル通信網)回線との接続も可能にしている。

衛星ATM伝送
 21世紀に到来するといわれるATM(非同期転送モード)世代。これは、53バイトの固定長データ列をP単位として伝送し、音声・映像・データといった情報の違いを意識させない次世代の通信方式。このATM交換機能を衛星に搭載することで、地上に光ファイバー網を張り巡らすことなく、きわめて効率的に次世代通信網を構築することができる。

どれか一つが欠けても成り立たない、
通信衛星技術。

衛星通信システムは多分野の技術によって構築されている。たとえば、衛星本体に関する技術から、その運用・制御技術、さらにユーザー個々にアプリケーションの提供、地上系通信システムのとの融合まで。当然、当社の技術者にも、多彩な技術領域を見渡せるだけの“幅広さ”が求められるわけである。

組織説明
一人の責任範囲。
それが、どこの会社よりも大きい。

衛星の安全な運用を手がける衛星・運用本部、ユーザー向けのアプリケーションを考えるネットワーク本部、さらに衛星の調達や事業計画づくりなどを行う管理部門まで。一つ一つの組織は小さいが、どのチームでも平均年齢が若く、若手社員に責任ある仕事を任せていく体制になっている。

営業部門
 営業第1部~第3部、Direc PC事業部の4セクションから成る。官公庁・自治体、電力・ガスなどの公共企業、放送関連、一般企業を対象に、衛星通信システムを提供していく。従来はトランスポンダの帯域を販売することがメインだったが、最近ではDAMA方式による衛星電話サービスや当社自身が衛星利用のアプリケーションをユーザー提案して営業活動を進めていくことが多くなっている。デジタル化によって衛星回線利用の低コスト化が進み、一般企業からの引き合いも急増中だ。

システム技術部
 ユーザー個々に向けたシステムの提案・設計・構築を担当。利用方法や立地条件などに応じて最適な機器・システム構成をデザインしていく。地上系通信システムとの融合も進み、技術者にはより広範な知識が求められるようになっている。また、衛星回線の解析、衛星アクセス方式の開発、移動体通信方式の開発、トランスポンダなどのミッション機器の検討まで、先端技術領域を広くカバーしている。

カスタマーサービス部
 衛星通信の利用には、放送法、電波法、電気通信事業法といった法律の規制がある。カスタマーサービス部では、ユーザーの許認可申請などを支援し、より使いやすい利用環境を提供。電気通信監理局への対応、直営設備の調達・運用管理保守も行う。

技術部
 衛星、地球局全般に関わる技術事項の検討を行う。衛星の使用設計から、衛星製造会社を指揮しての製作監督、打ち上げロケットの選定およびロケットと衛星のインターフェイス、軌道上の衛星の管制技術まで、様々な技術分野を受け持つ。

衛星管制局
 赤道上空3万6000kmの静止軌道上にある通信衛星本体の安全な運用を担うのが最大の職務。茨城・山口の両衛星管制局から衛星を24時間体制で監視し、その状態を常に正常に保つと同時に、精密に軌道をコントロールする。また、ユーザー地球局の通信状況を常時把握し、適正な通信運用が行われるよう、ユーザーをサポートしている。今後、続々と登場する新サービスに対応した衛星回線制御局などの運用も行う。

企画部
 会社としての長期戦略・将来ビジョンの策定、次期衛星の仕様検討をはじめとする事業計画のプランニング、郵政省との折衝・許認可関係、さらに広報・宣伝活動などを担当。

業務部
 次期通信衛星、衛星通信に必要な設備機器・システムなどの調達、保険契約業務、国際間の周波数調整などを担当。衛星やロケットは米国メーカーに発注するため、グローバルな視点での仕事が多い。

総務部・経理部
 総務部は、経営を着実に遂行していくための日常業務や人を主体とした活力ある組織づくり、採用、教育、福利厚生などを担当する。経理部は、会計処理や資金の運用・管理とともに、計画・実績の計数管理を行う。間接部門ではあるが、巨額の資金調達が必要なビジネスであり、また人の動きもダイナミックなだけに、当社ならではのやりがいがある。

仕事説明
リスクの可能性は極限まで小さくする。

新しいマーケットを創る、ということ。

 1995年、ちょうど彼が入社した頃、当社の営業スタイルは大きな変革期を迎えていた。それまでは、放送局や官公庁など日常的に大規模に衛星回線を使うユーザーに対して、トランスポンダ1本の利用権を1年分契約することが営業活動の柱だった。が、ここ数年のうちに、もっと手軽に、低コストで衛星が利用できるアプリケーションが誕生してきたのである。

 彼が所属する営業第3部は、一般企業への営業を担当しているセクション。ユーザーニーズに最適な衛星通信システムを提案していくことが彼らの仕事である。

 「最近の注目システムは、DAK(Direc PC Access Kit=受信アンテナ・インターフェイスボード・ソフトウェアで構成される受信キット)をセットするだけで、すでに持っているパソコンが受信局になります。アップリンクは茨城のNOC(Network Operation Center)が代行しますから、ユーザーは新たに送信局設備を導入する必要がないんです。回線も使った分だけの料金で済むため、初期投資もランニングコストも従来よりかなり低い。より安く、より使いやすく、というニーズにマッチしたシステムなんです」

 未来のもの、形がないものを商品としているだけに、仕事のスパンは長い。一度に分厚い提案書を出すことはないが、営業の各フェイズで10ページ程度の提案書を何回も何回も提出しながら、詳細を詰めていく。基本的に仕事は担当者に任されるため、企画書のまとめ方、営業の手法も人によって違う。相良自身は、「自分が見ても欲しいと思えるような企画書になっているか、ユーザーにメリットが提供できるかという、両側からの視点での提案」を大切にしているという。

 このシステムの誕生によって、今まで関心を持っていなかった人までもが、衛星通信の優位性に目を向けてくれるようになってきた。ただし、衛星通信はまだまだこれからのインフラであり、現時点でユーザーニーズを完璧に満足させることは難しい。  「だから今は、どんどん先のサービスを提供することを心がけていきたい。そうして1歩でも半歩でも、もっと人々に身近な衛星通信システムを創造していきたい」という。

衛星通信という技術について。

 ユーザーが衛星通信を利用するには、アンテナや送信局といった地球局設備が必要になる。これらはユーザーからそれぞれの機器メーカーに発注されることになるが、通信の使い方や条件によって設備のスペックが異なる。実際にどの程度のアンテナ径、送信機の出力レベルが必要なのかといった、基本的な衛星ネットワークのデザインやアドバイスを行っているのが、システム技術部である。その中で、彼は、電力、各省庁、NASDA(宇宙開発事業団)など、公共分野のニーズに応えるチームに所属している。

 「私が入社以来、最も深くつきあってきた技術は、通信衛星を利用したリモートセンシングですね。宇宙の衛星から国土映像を自治体が利用するという仕組みです。正確な地図の作成はもちろんのこと、大切な文化財の保護、どこにどんな植物があるかといった環境保全にも役立てられるわけです。今後、ユーザーに当社の回線を使うメリットをしていく際、リモートセンシングは有力なアイテムになるでしょうね」という。

 また、仕事を通じて、全く新しいニーズに接することも多い。電力会社との打ち合わせでは、衛星を使って数千カ所の送電線の状態をモニタリングしたいという話も聞いた。もちろんこれは現時点ではコスト的に難しいが、将来の実現に向けてアイデアをひねり続けている。また、遠隔地・離島の患者が衛星回線を介して東京の大きな病院に診察をしてもらったり、あるいは海外赴任している人やその家族などが現地で病気を患った際に、言葉もよく通じる日本の医師に診察してもらったりすることも技術的には可能だ。病巣部の映像などを国際間で送信できれば、学術的にも大いに役立つはずである。

 彼自身も、絶えずそうした衛星の新しい用途のアイデアを頭の中で練っている。“衛星を利用して何か新しいことができないだろうか”。そんな前向きの気持ちが石井を支えているのである。

 「当社では誰かが何かを指示してくれるわけではない。日々の業務については自分で勉強する部分もかなり多い。新しい会社の、若い連中が、新しいマーケットを創っていくことに一体となっているわけですからね。自分が何をどうしたいのかという意欲や意識、衛星通信システムは将来こうあるべきだという哲学や疑問符。そうしたものを持って仕事をすべき会社なんだろうと思います」

次の衛星を考える。

 ほぼ10数年というのが、通信衛星の寿命。大事をとって打ち上げから10年後に、後継機に交代させようというのが、一般的な例だ。当社の次期衛星は2000年に打ち上げる予定で、彼はこの次期衛星による事業計画づくりなどを担当している。打ち上げまでには3年ほどの期間を要するため、すでに97年は検討がスタート。さらに98年から衛星メーカー(主に米国メーカー)への発注に移り、99年から具体的に衛星やロケットの製造を進めていく。そうして2000年に打ち上げという計画になるわけである。
 「大切なのは、将来どのようにマーケットが変わっていくかという予測です。2000年にはもっとデジタル化が進んでいるでしょうし、デジタルのサービスの強化を図っていくことはまず間違いないでしょうね」
 彼は以前、アプリケーションの将来を考え、社内に“将来戦略検討会”を立ち上げた。営業、技術、総務などの各セクションから若手社員に集まってもらい、月に2回のペースで半年間にわたって活動を展開。メンバーの頭の中ではだいぶ次期衛星の姿が煮詰まってきているという。

3万6000km先の衛星を見つめる。

 彼は、SPEで衛星3機のミッションディレクタ[を担当。計画、設備、体制など、衛星の安全で最適な運用のための管理を行っている。たとえばスーパーバードに起こりうるあらゆるケースを想定した手順書の整備も垣内の仕事。どんなトラブルが起きたら、このように対処すという細かい手順が掲載されている。そのボリュームは、一つの衛星につき8センチのバインダー5冊にもわたるという。SPEにいると、どうしても3万6000km先の衛星に目がいく。ユーザー企業の状況はなかなか見えにくかった。
 「最近、SPEの隣に局ができて、ユーザーが身近になりました。ここSPEをしっかり守らないと、100chの衛星デジタル多チャンネル放送も、ユーザーの通信ネットワークも、その土台から崩れていってしまう。最近は、新聞や雑誌などで衛星の新しいサービスについての記事もよく見かけますし、自分が非常に重要なところにいることを実感しています」
 打ち上げのような派手ではないが、後継機へとバトンタッチするまで、大きなトラブルがないようにしっかりと衛星を見守っていきたいという。

通信の振る舞いを細かく分析する。

 彼は、SPEの通信グループに所属している。ひとことでいうなら、衛星の通信の監視が彼の仕事ということになる。以前なら、放送局や政府・自治体のように24時間ずっとアップリンクを続けているユーザーが多かったが、最近では様々なサービスを提供。必要なときにだけ回線を使うというユーザーも増えてきている。こうした複雑な回線利用の中で、通信回線が常に良好であるように最適の状態を保ち、チェックしているのが通信グループである。
 「ユーザーからデータをいただき、実際に衛星へとアップリンクしているセクションですからユーザーと接する機会も多いですし、営業部門よりユーザーに近いのではないかと思います。また、予知・予防という観点から、実際に何かをアップリンクしてトランスポンダの特性を測定し、評価をしていく仕事も担当しています」
 衛星が今どんな状態にあるのかは、SPEでしかわからない。ユーザーが実際に衛星を使っているところの情報も持っている。衛星運用の最前線なのである。

数百億円のビジネススケールを実感する。

 「最近やっと、衛星通信のビジネスの仕組みがわかってきました」
 そう話すのは、業務部の彼女である。業務部の役割の一つに設備・機器などの調達がある。注文書を作成して、当社への納入、代金の支払いまでの一連の流れを管理。調達するものは、大規模なもので米国メーカーに発注する衛星本体や地球局設備など。中にはもっと小さな備品類もある。また、最近では、サービスの開始に伴って、システム用のDAKを米国ヒューズ・ネットワーク・システムズ社から調達し、SI企業や通信機器メーカーに提供するというディストリビュータ的な機能も加わってきた。一回、一つだけの注文から、大量の注文まで幅も大きく広がっている。
 「業務部の担当には保険もあるんです。これは一般の損害保険ではなくて、衛星ビジネスのための打ち上げの保険です。入社して初めて、打ち上げに保険がかけられていることを知りました。また、日々の仕事を通じて、コストと売上が体感できることもこの仕事の魅力です。衛星ビジネスに、どれだけの人が関わり、どれだけの費用がかけられて成り立っているのか、それがよく実感できますね」

発想し、行動し、
新しいビジネスを創り出す人材。

当社のビジネスはようやく基礎固めの時期を終え、これから本格的な発展期に入るといっていい。衛星通信をもっと一般の人々に身近に感じてもらい、社会の至るところで活用される存在にする。めまぐるしい勢いで新技術が生まれ、次々と常識が書き換えられていく。そんな中で、新しいビジネスを創り上げていける人材の育成をめざしている。

自主性を重視した研修体制。

 入社後は事務系・技術系一緒に導入研修を実施。その後は配属先で、必要な研修を適宜受けていく。システム技術部の例では、約100の講座を実施している。研修で重視しているのは自己啓発であり、社員の自主的な研修を会社がバックアップする体制になっている。たとえば外部の英会話スクールに通う場合は、修了時点で費用の70%(最高15万円まで)を会社が負担。コンピュータ、通信、営業実務、社会保険労務士など、業務に関連する通信講座についても、修了時点に費用の70%が援助される。また、陸上特殊無線技士一級などの国家資格の取得についても、受験料などのバックアップを行っている。

経験を広げる海外研修。

 当社では、衛星やロケットを米国のメーカーに発注しているため、技術者が米国に出張する機会も多くなっている。C号機のプロジェクトでは、本社の技術部門から3カ月交代でスタッフが製造や打ち上げの現場に出張。現地の当社の事務所で、多数の若手社員がメーカーのスタッフと一緒になって設計や製造での問題点の解決、搭載機器のテストなどに当たっている。また一方で、将来の新しい衛星通信システムに向けて、国内外の技術の優れた技術や製品をリサーチ。それを検証しながら積極的に採り入れている。

オフを応援する福利厚生。

 当社ではより充実したオフを過ごしてもらうために、福利厚生の充実を図ってきた。東急田園都市線・青葉台に独身寮を、SPE・SPWの近くにも社宅を用意している。また、クラブ活動も盛んで、野球、ソフトボール、スキー、ラグビー、釣り、軽音楽クラブがあり、社員の大半が何らかのクラブに所属しているほど。一方、毎年好例のスキーツアーには社員の3分の1が参加してしまうほどの盛り上がり。さらに、福利厚生倶楽部の法人会員でもあり、ホテル、レジャー施設、チケット購入などがフルに利用できる。

大胆に発想し、繊細に創造する。

 衛星通信のビジネスは今ちょうど新しいフェイズを迎えている。衛星利用の新しいアプリケーションが次々と誕生。従来通り通信衛星の計画立案に始まるインフラづくりはもちろんのこと、どのようにして一般の人々に衛星デジタル回線を利用してもらうかを考え抜いていく時代になったといえるだろう。衛星通信や地上系ネットワークに関する基本的な知識を吸収することはもちろん、新しい用途やニーズを見出し、時にはまだ形になっていないサービスをゼロから立ち上げていくことも必要になる。
 当社は設立10数年の新しい会社であり、社員も第1期生がようやく30歳を越えたところ。C号機のミッションディレクターを30歳そこそこの先輩が努めたように、若くして業界随一の人材として活躍することも可能が秘められている。当社は、「宇宙」と「通信」という、2つのフロンティアスピリッツを持った集団。ただ単に知識や技術があるだけではなく、一つの新しいマーケットを創り、新しい会社を育てていく。そんな高いポテンシャルを持った人材を求めている。