動植物・土壌など生態系の調査、
地域振興計画・環境保全計画の立案、
景観設計・公園設計などが仕事です

 エコロジー、デザイン、コンピュータの3つの分野の先端技術を駆使し、地球環境問題から地域福祉問題まで、手がけています。環境アセスメント−動植物・土壌など生態系調査からレポート作成。地域計画シンクタンク−地域振興計画・福祉計画や環境保全のための行政施策立案。ランドスケープデザイン−景観設計、公園・動物園・庭園の設計や博物展示施設の設計。3つの機能を統合し、事業を展開、豊かな環境づくりを追求しています。

生態を重視したシーンづくり

 最近、動物園のあり方が大きく変わろうとしている。東京都では2001年ズーストック計画に基づき、理想的な動物園づくりをめざしている。その基本にあるのが、ハビタット(生態)に近い形での飼育や展示を行う手法だ。ある動物園ではエリアごとに様々なシーンをつくる計画で、すでに完成している「アジアの山岳地帯」に続き、「アジアの沼地」というシーンがプランニングされた。
 まず、いろいろなシーンを考える。次に、そのシーンにどんな動物がどんな風に住んでいるかを専門書で調べる。動物園の飼育係の人からも詳しく聞いて、展示の仕方を練っていく。インドサイは湿地に生息しているため、園内に湿地を造りたい。マレーバクは1日中、水の中にいるので、観覧者の近くに水辺をつくる。また、インドサイやマレーバクは、絶壁の水溝を造れば駆け上がってこないので、フェンスを低くして子供の視線からも直接観られるようにできる、という具合だ。
 そして、エンターテインメント性も重要。フェンスはアルミ製よりも自然な感じの木のほうが楽しい。動物舎の外観も大切にしたい。プロジェクトにはアメリカ人の景観デザイナーも加わり、見せ方、楽しみ方の作戦が綿密に練られたのである。

河川を一つの景観としてとらえる

 動物園だけではなく、自然公園や都市公園をはじめとして、担当するものは多岐にわたっている。もう一つの例として、隅田川の護岸修復プロジェクトもある。ここは増水時の安全性を重視し、“かみそり護岸”になっている。安全性には優れているのだが、川を一つの景観としてとらえた場合、どうしても面白味に欠けてしまう。そこで階段やスロープを設置して、自由に中に入れるようにする。中には遊歩道やベンチなどを設け、散策ができるよう。遊歩道も直線ではなく、微妙にアンジュレーションをつけてみる。花壇をつくって安らぎ感を出したり、アイデアが細部にまで生かされていく。そこの景観はどうあるべきなのか。景観デザイナーの、造形についての考え方が問われるのである。

人間の側から見た理想の自然環境

 一口に自然環境の保全といっても、自然度の高い原生林だけを残せばいいというわけではない。雑木林のように人間と深く関わり合い、共存してきた自然も少なくない。バランスを保ちながら、人間と自然との調和、人間の側から見た自然環境を考えていくことも大切である。
 では、私たちは、どのくらいの緑があれば満足感を感じ、また川にどのくらいの水量があればよい景観と思えるのだろうか。人々が体感する自然環境に対するモニター調査や分析も、プレック研究所の重要な仕事である。そこでは、心理学系の手法も用いられるのである。
 秋田県の自然景観の評価では、県民に「県を代表する景観としてどこが思い浮かぶか」「その景観をイメージする言葉」といったアンケートを実施。すると山岳地には原生的な林があるほうが好まれることが、具体的な声としてわかってくる。その結果を数値化して各ゾーンの評価をする。環境の理論的な分析と、それを県民がどう見ているかという材料を合わせて評価していくわけである。こうした結果に地域計画プランナーのノウハウや哲学がプラスされ、調査報告としてまとめられる。そして、街づくりや環境対策などに生かされていくのである。

住民にとって充実した町を考える

 「子供に優しい町づくり」「健康長寿の町づくり」など、全国各地で多種多様な地域計画が進んでいる。計画以前に必要なソフト面の実態調査などもプレック研究所の業務の一つである。たとえば、ある地域では小さい子供を持つ母親にどういうニーズがあるかという調査、あるいは老人介護などの実態を把握するための調査を行う。そして、住民のニーズとそれに対応する行政サービスを把握する。数量的には充足していても住民が不足感を持っているケースもあるし、時にはニーズとサービスがかみ合わずにミスマッチを起こしていることもある。今後の長期的な地域計画の中で何が必要なのかという分析を行い、さらに市町村全体でどれぐらいの施設や能力が必要とされるか、現状をどう改善していくかという計画をつくりあげる。こうした結果をもとに、地域計画が進められていくのである。

多様性保全という自然の考え方

 環境アセスメントなどの第一段階となる、環境の科学的な調査。動物・植物・土壌・水・大気などを調査し、複雑な生態系を把握していく。こうした調査で、話題になるのが希少種の保護である。ただし希少種は独立して生育しているのではなく、生態系の全体的なバランスの中で、様々な要因を受けながら生きている。だから、一つの希少種だけを残しても、結果として新たな希少種が出てきてしまう。生態を把握し、全体の仕組み保全していくことが、結局は希少種の保護につながるのである。国際的には生物多様性条約があり、日本でも1993年に締結。多様性を重視した植物の保全が叫ばれている。
 日本には約5000種類の植物があり、それぞれが違った生活史を持ち、進化の過程をたどってきている。そうした種が一つの植物群落をなしている。そのため、限られた狭い地域の自然を残しても、群落は保たれない。なぜそこに分布していたのかを深く考える。谷の植物は、尾根から流れてくる水がたまって保たれる湿地帯に生育していることが多い。ということは、尾根を開発してしまうと、谷の植物が育つ条件も崩れてしまうことになる。谷の植物を守るためには、尾根の自然も残しておかなければならないのである。

生態は複雑で、調査に限りはない

 以前は、植生自然度の高い環境を残すことが重要視されていた。現在は、山地・里地・平地・沿海と4つの分類でそれぞれに評価事項が設けられている。これは、それぞれの自然が持つ問題が違うためである。いわば、自然の中身が問われる時代になっているわけである。また、植物の受粉のメカニズムにはいろいろあり、風で遠くまで花粉を飛ばせるもの、あるいは鳥や昆虫を媒体として花粉を運ぶものもある。都市に点在する樹林などは、うまく点で結ぶように保全のプランを立てていく。
 生態は複雑で、奥が深く、調査にもこれでいいという限りがない。全国を駆け回り、一つ一つの植物種を細かく探っていく。土日に調査に出向くことも少なくない。植物の知識はもちろん、幅広い発想も必要になってくる。そして何より、自然を残そうという強い情熱を持っていなければ続かない仕事である