テレビや舞台を席巻した電飾の会社が、
企画力と技術で膨大なビジュアルアートの市場を創る

固有名詞がそのまま一般名詞として通っている例は多い。
業界の老舗であり顔である当社が、
同社ならではの企画力や技術力をもとに、
ビジュアルアートという大きな市場に挑んでいく。

 初めて当社の社名を耳にしたとき、正直なところ、その将来像はほとんどイメージがつかなかった。同社は30年以上も前から、テレビ番組の電飾技術に携わってきた会社である。電飾というのは、照明とは違い、電気による光の飾り付けのこと。同社はこれまで、テレビ局ではニュースやドラマ、バラエティーなど、舞台関係では演劇やミュージカル、歌舞伎など、あらゆる場面で豊富な実績を築いてきた。最近は複雑な電飾が一般的になり、アート性も強く求められている。同社はアートを制御するコンピュータシステムの設計・開発も行っており、技術に対する評価も高い。
 と、ここまでなら、テレビや舞台を支える有力企業にすぎない。クライアントの要望を忠実に実現する職人芸的な仕事だった電飾を、企画力・技術力をベースに自らの主張をも盛り込んだビジュアルアートへと高めてきた点に同社の大きな特徴がある。すでにオフィスビルなどのディスプレイ、テーマパークなどのアミューズメントといった分野で実績があり、従来の電飾の流れから大きく脱却している。そうした展開が新マーケットへの進出を果たし、将来の可能性を大きくしているのである。
 もちろん、新しい展開を進める中には、35歳という若さで会社を引っ張る二代目社長の存在が見逃せない。若手トップが掲げる未来戦略や将来展望を紹介していくことにしよう。

まず、今までになかった
新マーケットを創り上げた
技術力について

 近年の同社の活動で目立つのは、放送・演劇で培った技術を他分野で発揮していることである。今ではテレビ、舞台、イベント、現在の新事業領域であるディスプレイ、アミューズメントまで、5つのジャンルを築いている。
 ディスプレイの分野でいうなら、アート性を重視したビジュアル化が進み、ビルの壁面にも凝った照明を見かけるようになった。ここで生かされているのが、同社が独自に開発した『自動調光システム』という技術である。これは照明を虹色にグラデーション変化させるもので、コンピュータ制御技術が一つの基礎になっている。
 このほか、開発や製作のためのツールも含めて、新しい技術を積極的に採り入れてきた。CGによる電飾シミュレーションシステムの活用、イベント会場などで利用されるCG作成、あるいは新しい発光ダイオードにまで、常に最新の技術に目を向けている。
 これは、「常に最先端の技術を蓄えておき、時代の一歩先を見ておこうという姿勢から」(社長)である。同社が、高度なアート性と確実な施工技術が求められる分野へと進出できたのも、確かな技術力を築いてきたためといえよう。その技術力は、設計事務所や建設会社といった新しいクライアントを満足させ、未開拓の巨大市場を切り開くことに成功した。ディスプレイだけをとっても、同社は壮大なビジネスチャンスを目の前にしているのである。

歌舞伎座でも証明済みの
企画・提案力を
事業展開の武器にする

 同社でもう一つ見逃せないのが、早くから強化してきた企画力や提案力である。ビジュアルアートを必要とする場があれば、適合したアートを企画・提案し、作品として完成させていくわけである。
 一例をあげると、『七月大歌舞伎』では約13万本の光ファイバーをコンピュータ制御することで電飾の花火を描き出された。光ファイバーを使うアイデアも、それをシステム的に制御していくことも、同社の提案だった。また、世界デザイン博覧会開催にあたって、名古屋駅前の『光の希望モニュメント』をはじめ3カ所の会場にディスプレイが設けられたが、これも同社が企画から携わったものだ。具体的な要望が寄せられたわけではなく、デザインや技術などすべての面で、全くのゼロの状態から企画・提案し、設計・製作・施工していった。企画力と技術力を持ったアート&エンジニアリングの集団だからこそ、他分野への展開が可能になるのである。

メディアは今後も急増し、
マーケットは急拡大する。
将来のための、ある準備

 今後、テレビや情報ネットワークがどういう形になっていくかは予測できないが、メディアといわれるものが急増していくことは誰の目にも明らかだろう。放送関係では、BSやCS、CATVといった新しいメディアが生まれ、同社もこれらに進出している。
 市場性は十分でも、ソフト制作の効率化が図られないと、増大するメディアに対して提供されるソフトが質・量の両面で追いつかないだろうという指摘もある。同社ではそうした背景も踏まえ、技術面や人材面の革新に取り組んでいる。電飾は特殊な市場であるだけに、技術のマニュアル化は遅れている。が、その利用が格段に広まろうとしている今、従来の手法は改善されなければならない。
 そこで同社が取り組んでいるのが、技術の標準化である。これにより、短納期化や低コスト化が実現する。膨大なニーズにも応えられ、ソフトの安定供給や質的向上にもつながっていく。そして業界内で同社がリーダーシップをとっていくことにも結びついていくだろう。また、人材面でも若手の活用や多分野の技術者を採用など、人材、技術の両面で将来に備えた改革を進めている。
 社長は、「中途社員も業界の経験者ではなく、コンピュータメーカーのエンジニアなど、いろいろな人を採用しています。各分野の知識を電飾に生かし、ビジュアルエンジニアリングとでもいうべき新しい技術領域を確立していきたい」という。それも将来に向けた一つの戦略である。
 同社の努力は、身近な分野への電飾アートの応用に加え、マルチメディア社会の実現に大きな貢献をもたらすことになるだろう。CD︱ROMやインターネットなど、次々と登場する新しいメディアすべてが同社のターゲットであり、これらが一般の人々に本当に浸透したとき、同社の事業戦略も実を結ぶことになるのである。