『人力飛行機』という今までになかった発想を形にする。

 彼は入社以来、開発設計部に所属。業務用のゲーム機のメカ部分の開発設計に携わってきた。最近、彼が担当したものがある。
 「開発期間は1年ぐらいでしたね。はじめに企画サイドから『人力飛行機』というアイデアが出てきたんです。自転車のようなペダルで入力する、ハンドルで方向を操作するという具合に、今までにない発想で驚きましたね」
 前例がない製品だけに、開発はほとんどゼロからのスタートだった。まずは、自転車や健康サイクルなどを買ってきて、ペダルの機構を調べる。本体を固定したり、可動にしたり、完成イメージをいろいろと模索する。
 「動いたほうが、ペダルをこいだときに空中をふわふわ浮いている臨場感が出そうだ。そう思い、ペダルをこぐ反動で自然な浮遊感が出るようにしました」  最終的には、工作機械などの振動防止に使われる防振ゴムを使って浮遊感を出すことに成功したのだが、そこに到達するまでにスプリングやゴム部品など、ありとあらゆる部品を試した。既成の部品に納得がいかなければ、メーカーに頼んで別の製品を入手する。素材だけでなく、支点の位置、ゴムの位置、それに個数も変えてみる。一つの方法を試し、また少し違う方法で試すという繰り返しだ。
 「いいものができなければ、発売に間にあっても意味がない」
 そんな思いで手探りの開発を続けた末、九五年六月に新製品は完成した。
 「完成後、店舗に行くと、お客さんが楽しそうにやっているんです。そういう光景を見たときは嬉しいですし、また新たな開発意欲がかきたてられますね」

開発期間はおよそ一年。そのうち二カ月ほどは試作に費やされた

 「中学生の頃、ちょうどゲームが流行っていましてね。その頃から、将来はゲーム業界に就職するつもりでいました」
 そう話す彼女が所属する研究部では、基礎研究から、ASICや基板の設計開発まで幅広く手がけている。彼女自身は配属時からずっと一つのASICを担当中だ。
 「ずいぶん長く取り組んでいますが、これがかなり大きな規模のASICなんです。多機能で、中に入る回路の種類がいっぱいあるという感じですね」
 ゲームの質感は、どうしてもハードウェアの能力によって限界が決まってしまう。最近ではポリゴンのゲームが増え、3DのCGを生かすためにも、ハードの性能向上はさらに重要なテーマになっている。小山が担当しているのは、そんな課題を一段階クリアするようなASICである。
 「ポリゴン基板の場合、とにかく高性能なほうが映像の質を上げるためにはいいですし、何より他社の手が届かないものをつくりたいという気持ちがあります。たとえば、ASICの動作速度を上げるために並列処理をすると、回路が大きくなってしまいます。すると、どこか機能を制限しなければならないんですが、当然、削りたくない機能ばかりで、行ったり来たりの繰り返しになるんです。毎日が試行錯誤の連続ですね」
 ASICの設計は、まず机上でブロック図を書くことから始まる。さらに、回路記述言語を使ってWS上で基本的な設計を施し、コンパイルと呼ばれる論理合成を行う。その後にチップ上のトランジスタの並びを設定して、やっと実物のICになる。しかも、チップになってから、基板上に組み込んでからの動作確認で、初めて見えてくる問題も多い。問題が見つかれば、前のステップに戻って、同じプロセスをもう一度やり直すことになる。
 「そういう紆余曲折のプロセスを経て、一つのASICができあがり、ゲーム機の限界が広がっていくわけです」