まずはハンググライダーで決死の滑空。
3次元空間を飛び回る人力飛行機の
VRを形にしたチームの活躍

ペダルをこぎ、ハンドルを操作し、
空中のバルーンを割っていくという発想

 自分でペダルをこぐ。上下左右にハンドルを動かす。プレイヤーのアナログ的な入力から三次元の仮想空間を創り出していく。今までになかった“人力飛行機”というコンセプトも鋭いが、ポリゴン基板をはじめとする先端技術も目を見張る。もはや疑似体験装置とでも言ったほうが良さそうなVRマシン。そんな製品を実際につくり上げたメンバーと、9つの職種を紹介していこう。

ゲームを考え、メンバーをまとめ、
プロジェクトを引っ張る企画担当

●企画の仕事
 ゲームを企画・発案するのが企画の仕事(って、そのままだ)。プロジェクトのまとめ役でもあるため、ハードやソフトなど、他のメンバーの担当範囲の基礎知識も必要です。

●まじめな話
 空を飛びたいっていうのは人間の昔からの夢ですよね。このゲームって、バルーンを割ることより、むしろ空を飛ぶ感覚を味わうことが基本になっているんです。空を飛ぶってどんなんだろう、どんな気持ちなんだろうっていう点を重視してプランニングしました。人力飛行機で自由に飛び回るアイデアは昔からあって、高性能なハード基板の登場によってようやく実現できたんです。

●こぼれ話
 さすがに完成間近は会社で“合宿状態”。コンセプト的に面白いゲームだったし、気分もハイだったので、気がついたら朝だったっていう日がけっこう何日もありましたね。

心臓部のシステムボードを
設計・開発するハードエンジニア

●ハードエンジニアの仕事
 ゲームのプロジェクトとは別に、新しいシステムボードを開発するのが、研究部のハードエンジニアの役割。主に、PCBやカスタムICの設計・開発を担当します。

●まじめな話
 このゲームに搭載されているシステムボード。実はCPUはそれほど高速ではなくて、カスタムICを使った並列処理で高速な動作を実現しているんです。当社は業界で初めてカスタムICを採り入れた会社ですから、その技術は豊富。プレイヤーの入力から3Dの映像や音をつくり出し、60分の1秒ごとに1画面を高速描画してるんです。

●こぼれ話
 研究部ってハード基板の先行的な開発を行っているので、プロジェクトメンバーの人たちのようにハンググライダーで空を飛びに行くチャンスがないんです。それがちょっとだけ悔しいです。

電気制御エンジニアは、
機械全体を動かす電気設計を担当

●電気制御の仕事
このゲームで言えば、ペダルの入力から速度を読み取ってシステムボードに伝えるところ、風を送り出すファンなど。システムボードを除いた電気的な制御部分を担当します。

●まじめな話
 プレイヤーがハンドルを切り、ペダルをこぐと、その方向や速度に応じた仮想空間がつくり出される点がこのゲームの特徴。まずは、プレイヤーの自由な動きを読み取る仕組みを考えました。で、滑車に貼ったスリット状のミラーシールに赤外線を当てて、反射光を小型センサでキャッチするという方法で読み取ることに成功。光学式マウスと同じような非接触式なので、耐久性も十分です。

●こぼれ話
 風も出るんです。ペダルを思いっ切りこいだり、軽くこいだりして、いろんな風を感じてください。そんな余裕ないかもしれないですけど、バルーン割るのに忙しくて。

ゲーム機の“動き”をつくり出す
メカニカルエンジニアの頭脳と腕力

●メカエンジニアの仕事
 筺体全体のメカ設計が主な担当。新しいタイプのゲームの場合は、操作部や駆動部、材料など、多方面からアプローチしていって、新しい機構を考えることが多いですね。

●まじめな話
 あのふわふわした浮遊感は、実は防振ゴムで出しているんです。筺体の下に4箇所、半球形のゴムをおき、プレイヤーの体重や動きでアバウトに揺動するようになっています。ゴムの位置や大きさ、個数、素材など、あらゆる実験を試みて、やっと形にしました。防振ゴムは、ホントは振動を吸収するもの。「あなたの会社はいつも本来の用途と違う使い方をする」ってよく言われます。

●こぼれ話
 実験段階で、支点の位置を胸のあたりにもってきて、頭と足が揺れる感じにしたんです。個人的には気に入ってたんですが、賛否両論でした。見るからに乗ったら壊れそうな試作機だったからかなあ。

ゲームの内容を
オブジェクト指向でプログラムする
ソフトエンジニア

●ソフトエンジニアの仕事
 バルーンに当たったら破裂する。プレイヤーがこぐのを忘れたら失速して落ちる。という具合に、ゲームの内容をプログラムにしていくこと。それが僕たちの役割です。

●まじめな話
 人力飛行機には自分の動きを制御するプログラムがあって、ハンドル・ペダルの操作を取り込みながら3次元空間を進んでいきます。バルーンにはヒットチェック機能があり、ヒットと判定されると別のプログラムが呼び出されるという処理になっています。実行速度も大切で、大きなデータを入れる場合は差分を入れたりして、いろんなところに工夫を凝らして、速さを確保しています。

●こぼれ話
ボーナスステージを作ろうとしてたんです。が、よく考えると、さんざんペダルをこいだあげくに延長になると、お客さんの心臓が止まってしまうかもしれない、という理由で却下になりました。

ゲームの内容と雰囲気を外観で伝える
インダストリアルデザイナー

●仕事概要
 ゲーム機の内容や雰囲気を外観デザインで表現するのがIDの役割です。外観ばかりでなく、ロゴデザインや成型品の図面作成まで、けっこう仕事の範囲は広いです。

●まじめな話
 地面と空との間に本体があって、さも宙に浮いているようなデザインにしました。あと、高さを感じてもらうために、木を書き込んだりしましたね。これは“目立つ”ことより、“異世界”を表現することをめざした製品です。だから、あま派手な色は使ってないんです。で、結局、外観からロゴまで、書いたスケッチはなんと300枚以上。ちゃんと数えたわけじゃないですけど。

●こぼれ話
 大がかりな図面を作成した時は、4日ほど会社に泊まり込み。毎朝ボレロを聴いてから仕事を始めました。これ、だんだん盛り上がってくるので、寝ている頭を仕事に向けるのにいいんです。

仮想の3次元空間に広がる
ゲームの世界を描くCGデザイナー

●CGデザイナーの仕事
 地形や小物など、ゲームに出てくるオブジェクトを作成。CGのイメージで、プレイする人たちの臨場感が変わったりしますから、ゲームの“顔”ともいえるんです。

●まじめな話
 地形、バルーン、イルカなどのCGを担当しました。バルーンの破片の飛び散り方は物理計算で正確に作ってあるんですよ。あと、一番レベルが高いところの空中都市の地形も私が作成しましたので、たくさんプレイしてエンディングをしっかり見てください。それと、ゲームのところどころには、プロジェクトメンバーもこっそり登場していたりするんです。

●こぼれ話
 「女性でも大丈夫か」というテストをするとき、実験要員として何かと駆り出されました。もう、何百回プレイしたことやら。おかげで1回で最終ステージまで行けるほど、うまくなってしまいました。

あの手この手、自分の手で
音を創るサウンドクリエイター

●サウンドクリエイターの仕事
 音に関するものすべてが僕たちの守備範囲。BGMはもちろん、衝突音、飛行音、水が流れる音、登場キャラクターの声まであらゆる効果音を対象にしています。

●まじめな話
 主に効果音を担当しました。一般的な効果音はライブラリーがあるんですが、バルーンの破裂音は自作したんです。社内のあちらこちらに行っては手を叩き、手の形も少しずつ変えながら、録音してはデジタル化して加工、という繰り返し。結局、会社のエレベータホールでいい場所を探し当て、深夜誰もいなくなってから、自分で手を叩いて録音しました。というわけで、あのバルーンの破裂音のモトは、私の手です。

●こぼれ話
 当社の直営・直轄店は音にも配慮しているんですが、他の店では、ゲーム機の配置によってはちゃんと聞こえない音がことがあるんです。でも、コインの音まで凝って作ってたりするんですよ。

開発がつくった試作機をもとに、
量産計画を進めていく生産技術

●生産技術の仕事
 量産の計画づくり、生産工場へ技術支援などが主な仕事。できあがった試作機を検討して、量産加工しにくい箇所などの修正を開発部門にお願いすることもあります。

●まじめな話
 ペダル機構部分は台湾のメーカーで量産してもらい、日本で最終的な組立を行ったんです。それで、何度も台湾を訪れました。台湾ではトップレベルの企業だったんですが、どうしても加工が難しい箇所があり、最終体には検査するツールを日本から持っていったんです。そうしたら空港のX線検査に引っかかったりして、あせりました。いろいろ苦労した末に完成した製品なんです。

●こぼれ話
 台湾のメーカーとの打ち合わせでは、簡単な英語と、あと通じないところは怪しげな漢字をいっぱい書いて一生懸命こちらの意図を伝えました。絵を描いて説明したところも多かったですね。